「60万円以下の未払い金や敷金を取り戻したい」——そのときの有力な選択肢が、簡易裁判所の少額訴訟です。結論からお伝えすると、少額訴訟は①管轄の確認→②訴状の作成→③簡易裁判所への提出→④期日の準備→⑤審理・判決という5ステップで進み、審理は原則1回、その日のうちに判決が言い渡される仕組みとされています(民事訴訟法368条以下)。手数料は請求額10万円ごとに1,000円と比較的少額で、本人による申立ても可能です。この記事では、必要書類・費用・当日の流れ・つまずきやすい点まで、初めての方に向けて順番に解説します。
結論:少額訴訟は5ステップ・審理1回で判決まで進みます
少額訴訟は訴状の提出から原則1回の審理で判決まで進む手続きで、申立てから判決までは1〜2か月程度が目安とされています。
全体の流れは次のとおりです。
- 管轄の確認:どの簡易裁判所に申し立てるかを決める
- 訴状の作成:裁判所の定型書式に記入する
- 提出:収入印紙・郵便切手とともに簡易裁判所へ
- 期日の準備:証拠の原本や証人を用意する
- 審理・判決:原則1回の期日で審理し、即日判決
少額訴訟が使えるのは「60万円以下の金銭の支払い」を求める場合だけです。物の引き渡しや謝罪を求める訴えには利用できません(民事訴訟法368条1項)。
各ステップの詳細は後述します。まずは制度の全体像から確認していきましょう。
そもそも少額訴訟とは?どんなトラブルに使える制度ですか?
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り利用できる、簡易裁判所の特別な訴訟手続きです(民事訴訟法368条)。
裁判所ウェブサイトの手続案内でも「少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り利用することができる特別な訴訟手続です」と説明されています。
対象となるトラブルの例
対象は「金銭の支払い」を求める請求に限られます。次のようなトラブルが典型例です。
- 敷金・保証金が返還されない
- 貸したお金が返ってこない
- 未払いの賃金・残業代がある
- 商品代金・修理代金が支払われない
- フリマ・ネット取引の代金トラブル
利息や遅延損害金などの附帯請求は請求額(訴額)に算入しないとされているため(民事訴訟法9条2項)、元金が60万円以下であれば利息を上乗せして請求できる場合があります。
通常訴訟・支払督促との違い
他の手続きとの主な違いは、審理の回数と決着までの速さです。
| 手続き | 対象 | 審理 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 少額訴訟 | 60万円以下の金銭請求 | 原則1回・即日判決 | 分割払い判決あり・控訴不可 |
| 通常訴訟(簡裁) | 140万円以下 | 複数回が一般的 | 控訴が可能 |
| 支払督促 | 金銭請求(上限なし) | 書類審査のみ | 異議が出ると訴訟へ移行 |
| 民事調停 | 制限なし | 話し合い中心 | 合意できなければ不成立 |
相手が全面的に争ってくることが確実な場合は、最初から通常訴訟や調停を選んだ方が結果的に早いこともあるとされています。手続きの選び方は後述の相談先でも確認できます。
利用の条件と回数制限
利用条件は「金額」と「回数」の2つです。①請求額が60万円以下であること、②同一の簡易裁判所で利用できるのは同じ年に10回までであること、が主な条件です(民事訴訟法368条)。訴状には、その年に少額訴訟を利用した回数を記載する欄があります(民事訴訟規則223条)。なお、最高裁判所の司法統計によると、少額訴訟は全国で年間数千件規模で利用されているとされています。
始める前の準備・必要なもの
準備するものは訴状・証拠のコピー・収入印紙と郵便切手の3点が基本で、訴状の定型書式は裁判所のウェブサイトで入手できます。
必要書類チェックリスト
書類は「訴状」「証拠」「相手方の情報」の3種類です。
- 訴状(正本+被告の人数分の副本):裁判所サイトに貸金・敷金返還・給料支払などの定型書式と記載例があります
- 証拠書類のコピー:契約書、借用書、領収書、振込明細、メール・LINEの記録、内容証明の控えなど
- 相手方の住所・氏名の情報:相手が法人なら登記事項証明書(法務局で取得)
- 収入印紙・郵便切手:金額は次章で解説します
証拠の集め方のポイント
証拠は「その場で調べられるもの」が原則です。少額訴訟では、即時に取り調べることができる証拠に限り採用されるとされています(民事訴訟法371条)。書面や期日に同行できる証人が中心になります。契約書がない場合でも、振込記録やメッセージのやり取りが証拠になる場合があります。
証拠が乏しく事実関係に争いがありそうな場合、1回の審理では立証しきれないおそれがあります。申立て前に法テラスや弁護士会の法律相談で見通しを確認することが勧められています。
事前の催告(内容証明郵便)
提訴前の催告には、交渉で解決できる可能性も残せます。訴訟の前に、配達証明付きの内容証明郵便で支払いを求めるのが一般的です。相手が任意に支払えば訴訟自体が不要になり、支払われない場合も「請求したのに応じなかった」経緯を示す資料になります。
少額訴訟の費用と期間はどれくらいかかりますか?
費用は請求額10万円ごとに1,000円の手数料と数千円分の郵便切手代が基本で、期間は申立てから判決までおおむね1〜2か月です。
手数料(収入印紙)の早見表
手数料は請求額に応じた定額制です(民事訴訟費用等に関する法律・別表第一)。
| 請求額 | 手数料(収入印紙) |
|---|---|
| 〜10万円 | 1,000円 |
| 〜20万円 | 2,000円 |
| 〜30万円 | 3,000円 |
| 〜40万円 | 4,000円 |
| 〜50万円 | 5,000円 |
| 〜60万円 | 6,000円 |
このほかに、書類の送付に使う郵便切手(予納郵券)を数千円分納めます。金額は裁判所や当事者の数によって異なるため、申立て先の簡易裁判所に確認してください。
期間の目安
標準的な期間は申立てから1〜2か月とされています。
- 訴状提出から期日指定まで:即日〜数日
- 口頭弁論期日まで:おおむね1〜1か月半
- 審理:当日1回(30分〜2時間程度が一般的とされています)
- 判決:原則として即日言い渡し
勝訴した場合、手数料などの訴訟費用は相手方の負担とするよう求められます。ただし実際に回収できるかは相手の資力にもよるため、費用倒れのリスクは事前に検討が必要です。
少額訴訟のやり方5ステップ|手順を順番に詳しく解説
手順は「①管轄確認→②訴状作成→③提出→④期日準備→⑤審理・判決」の5ステップで、審理は原則1回・判決は即日が基本です。
ステップ1:申立先の簡易裁判所を確認する
原則は相手の住所地の簡易裁判所です。被告(相手方)の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てるのが原則ですが(民事訴訟法4条)、金銭の支払請求では、義務履行地として原告の住所地の簡易裁判所に申し立てられる場合もあるとされています(同法5条1号)。管轄は裁判所ウェブサイトの「管轄区域表」で確認できます。
ステップ2:訴状を作成する
定型書式の穴埋めで作成できます。裁判所サイトの類型別の定型訴状(貸金・売買代金・敷金返還・給料支払など)をダウンロードし、次の要素を記入します。
- 当事者の氏名・住所
- 請求の趣旨(例:「被告は原告に対し、金30万円を支払え」)
- 紛争の要点(いつ、どのような契約・出来事があり、いくら未払いか)
- その年に少額訴訟を利用した回数
「少額訴訟による審理及び裁判を求める」欄への記入を忘れると通常訴訟として扱われるため、提出前に確認してください。
ステップ3:簡易裁判所に提出する
提出は窓口または郵送でできます。訴状の正本・副本、証拠書類のコピー、収入印紙、郵便切手を添えて提出します。窓口では書記官が形式面を確認してくれるため、初めての場合は持参が安心です。受理されると期日が指定され、裁判所から被告へ訴状が送達されます。
ステップ4:期日までに準備する
準備の中心は原本と証人の手配です。期日には証拠の原本を持参し、証人がいる場合は当日同行してもらいます。被告から「答弁書」が届いたら内容を確認し、反論の根拠を整理しておきましょう。裁判所から事前に言い分の確認の連絡がある場合もあります。
ステップ5:審理・判決(当日の流れ)
審理は丸テーブル形式・1回が原則です。少額訴訟の審理は、裁判官と当事者が丸テーブル(ラウンドテーブル)に着席して話しやすい形で進む運用が一般的とされています。双方の言い分と証拠を確認した後、和解の話し合いが打診されることも多く、まとまらなければ原則その日のうちに判決が言い渡されます。判決では、3年以内の分割払いや支払猶予が命じられる場合があります(民事訴訟法375条)。
5ステップの所要期間は合計1〜2か月程度です。書類は定型書式の活用で、当日は「事実を時系列で話す」準備で対応できます。
つまずきやすいポイントと対処法
つまずきやすいのは管轄の間違い・証拠不足・相手の所在不明の3点で、いずれも申立て前の確認でほぼ回避できます。
管轄の簡易裁判所を間違える
管轄違いは移送で時間をロスします。管轄のない裁判所に申し立てると、管轄裁判所への移送手続きで数週間単位の時間がかかることがあります。申立て前に裁判所ウェブサイトまたは電話で確認しましょう。
証拠が足りず立証できない
1回審理の制度では準備不足が致命傷になります。少額訴訟は原則1回で審理が終わるため、「後から証拠を出す」ことが基本的にできません。契約書がなくても、振込明細・領収書・メッセージ履歴などを時系列で整理し、事実を裏づける資料を可能な限り揃えてから申し立てることが重要です。
相手の住所が分からない
送達できなければ審理は始まりません。訴状は被告に送達される必要があるため、住所不明のままでは手続きが進みません。法人であれば登記事項証明書で本店所在地を確認できます。個人で転居先が不明な場合は、手続きの選択を含めて専門家への相談が勧められています。
公示送達によらなければ被告を呼び出せない場合、少額訴訟は裁判所の職権で通常訴訟に移行するとされています(民事訴訟法373条3項)。相手の所在が不明なときは、当初から通常訴訟の検討が必要です。
効率化・応用のコツ
効率化の鍵は定型書式と無料相談窓口の活用で、簡易裁判所の手続案内を使うと書類作成の負担を大きく減らせます。
- 裁判所の記載例を横に置いて書く:類型別の記載例をなぞれば、法律用語に詳しくなくても形になります
- 簡易裁判所の手続案内を利用する:書記官等が書式や手続きの形式面を案内してくれます(有利不利の法律相談はできません)
- 法テラスを使う:収入等の条件を満たせば無料の法律相談を利用できるとされています(日本司法支援センター)
- 支払督促と使い分ける:相手が争わない見込みなら、書類審査だけで進む支払督促(手数料は訴訟の半額)も選択肢です
- 和解も視野に入れる:期日で和解できれば、分割払いなど柔軟な解決と早期の決着を両立できます
民事裁判手続のIT化が段階的に進められており、ウェブ会議の活用などの運用が広がっています(法務省)。最新の運用は申立て先の簡易裁判所にご確認ください。
注意点・リスク|控訴できない判決と通常訴訟への移行
主なリスクは、被告の申述で通常訴訟へ移行する可能性と、判決に控訴できない点の2つです(2週間以内の異議申立ては可能です)。
被告の申述で通常訴訟に移行する
移行の選択権は被告側にもあります。被告は、最初の期日で弁論するまでは通常訴訟への移行を求めることができます(民事訴訟法373条)。移行すると審理は複数回になり、決着まで数か月以上かかることも珍しくありません。
判決に控訴はできない(異議のみ)
不服申立ては2週間以内の異議に限られます。少額訴訟の判決には控訴ができず(同法377条)、不服がある場合は判決書等の送達から2週間以内に同じ簡易裁判所へ異議を申し立てます(同法378条)。異議後は通常の手続きで審理がやり直されます。
勝訴しても自動では回収できない
判決後の回収には強制執行が必要です。相手が判決後も支払わない場合、少額訴訟債権執行(民事執行法167条の2)により、給与や預金の差押えを同じ簡易裁判所に申し立てられます。ただし、相手に差し押さえられる財産がなければ回収は難しいため、費用倒れのリスクは申立て前の検討が必要とされています。
債権には消滅時効があり、多くの場合「権利を行使できることを知った時から5年」で完成するとされています(2020年4月施行の改正民法166条)。時効完成が近い場合は、訴え提起による完成猶予も含めて早めに専門家へ相談してください。
具体例・ケーススタディ|敷金12万円の返還を求めるモデルケース
敷金12万円のモデルケースでは、手数料2,000円と切手代で申し立て、内容証明の送付から約3か月で解決に至る流れが典型です。
モデルケースの時系列
内容証明から和解まで約3か月を想定した例です。
| 時期 | 行動 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 内容証明郵便で返還を請求 | 1,500〜2,500円程度 |
| 1か月目 | 応答なし→証拠を整理(賃貸借契約書・退去時の写真・精算書) | − |
| 2か月目 | 簡易裁判所へ訴状を提出 | 印紙2,000円+切手数千円 |
| 3か月目 | 期日:審理→裁判官の勧めで和解成立(10万円を支払う内容) | − |
このケースから分かること
争点の絞り込みと証拠写真が決め手になります。敷金返還では原状回復費用の負担範囲が争点になりがちです。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の使用による損耗(経年劣化)の回復費用は原則として貸主負担とされています。退去時の室内写真や精算書は、この基準に沿って主張するための重要な証拠になります。
少額のトラブルほど「証拠の整理→内容証明→少額訴訟」の順で段階的に進めるのが定石です。期日での和解も十分あり得るため、受け入れられる着地点を事前に考えておきましょう。
まとめ|まずは証拠の整理と無料相談から始めましょう
少額訴訟は、準備さえ整えば1〜2か月で決着を目指せる手続きです。まずは証拠の整理と無料相談窓口の活用から始めましょう。
- 少額訴訟は60万円以下の金銭請求に使える簡易裁判所の手続きで、審理は原則1回・即日判決です
- 費用は手数料(請求額10万円ごとに1,000円)と郵便切手数千円、期間は1〜2か月が目安です
- 手順は「管轄確認→訴状作成→提出→期日準備→審理・判決」の5ステップです
- 通常訴訟への移行・控訴不可・費用倒れの3つのリスクは事前に検討が必要です
迷ったら、法テラス(サポートダイヤル 0570-078374)、市区町村の無料法律相談、弁護士会・司法書士会の相談窓口で見通しを確認してから動くのが安全です。
よくある質問
少額訴訟のやり方についてよく検索される5つの疑問に、結論から簡潔にお答えします。
少額訴訟は自分ひとりでも申し立てられますか?
はい、本人による申立てが可能で、実際に多くの少額訴訟は当事者本人が行っているとされています。定型書式と簡易裁判所の手続案内を利用できます。ただし、事案が複雑な場合や相手が争う姿勢の場合は、弁護士や簡裁訴訟代理権を持つ認定司法書士(請求額140万円以下)への相談・依頼を検討してください。
60万円を超える請求はどうすればよいですか?
60万円を超える場合は少額訴訟を利用できないため、簡易裁判所の通常訴訟(140万円以下)や地方裁判所への訴え、支払督促などを検討します。請求額を60万円以下に減らして申し立てる方法もありますが、残りの請求の扱いに影響し得るため、事前に専門家へ確認することが勧められています。
相手が期日に来なかったらどうなりますか?
被告が答弁書も出さずに欠席した場合、原告の主張を争わないものとみなされ(擬制自白)、主張どおりの判決が言い渡されることが多いとされています。ただし訴状が被告に送達されていることが前提で、送達できない場合は手続きが進みません。
判決が出ても相手が支払わないときは?
少額訴訟債権執行を利用して、給与や預金口座の差押えを申し立てられます(民事執行法167条の2)。判決を出した簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる仕組みで、地方裁判所での強制執行より手続きが簡易とされています。
請求できる期限(時効)はありますか?
あります。多くの債権は「権利を行使できることを知った時から5年」で消滅時効が完成するとされています(2020年4月施行の改正民法166条)。なお、確定判決で認められた権利の時効期間は10年です(民法169条)。時効が迫っている場合は早急な対応が必要です。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案への法的助言ではありません。具体的な対応は、弁護士・司法書士などの専門家や法テラスにご相談ください。
最終確認日:2026年7月21日
