まな先生解説
こころ質問
すい要点整理
遺言書の書き方の注意点一覧:無効になる10の落とし穴
| # | 落とし穴 | どうなるか | 正しい対応 |
|---|---|---|---|
| 1 | 本文をパソコンや代筆で作成 | 自筆証書遺言として無効 | 本文は全文を手書き。例外は財産目録のみ |
| 2 | 「令和8年8月吉日」と書く | 日付不特定で無効(最判昭和54年5月31日) | 年月日を数字で正確に記載 |
| 3 | 押印を忘れる | 現行方式では要件を欠く | 認印でも可。任意化の施行は未了 |
| 4 | 財産目録に署名押印しない | 目録部分が無効になる恐れ | 全ページに署名押印(両面記載なら両面) |
| 5 | 訂正を自己流で行う | その訂正がなかったものとされる(民法968条3項) | 訂正より書き直しが安全 |
| 6 | 不動産を住居表示だけで書く | 相続登記が受理されない恐れ | 所在・地番・家屋番号を登記事項証明書どおりに |
| 7 | 預貯金を「○○銀行の預金」とだけ書く | 銀行窓口で特定不能とされる恐れ | 支店名・種別・口座番号まで記載 |
| 8 | 遺言執行者を指定しない | 預貯金解約に相続人全員の関与が必要な場面がある | 執行者と権限を明記 |
| 9 | 相続人以外へ「相続させる」と書く | 登録免許税が0.4%→2.0%になる恐れ | 相続人以外には「遺贈する」 |
| 10 | 遺言の存在を誰にも伝えない | 発見されず分割協議が終わる恐れ | 法務局保管+指定者通知(最大3名) |
「無効の注意点」と「使えない注意点」は別物
注意
押印の任意化は要件の「緩和」です。いま押印して作成した遺言書が、改正の施行によって無効になるわけではないと考えられます。健康や年齢に不安がある方は、待たずに書くのが基本方針になります。
結論:遺言書は「まず1通、現行方式で書いて法務局へ」が最短ルート
なぜ「待つ」より「今書く」が基本なのか
| 改正内容 | 施行時期 | 2026年8月時点の状況 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言等の押印の任意化 | 公布(2026年6月24日)から1年以内 | 遅くとも2027年6月までに施行予定、具体日は政令待ち |
| 保管証書遺言(デジタル遺言)の創設 | 公布から3年以内 | 遅くとも2029年6月までに施行予定 |
今日から始める4ステップ
- 財産と相続人の棚卸し:登記事項証明書、通帳、証券口座、ネット銀行、保険を一覧化します。戸籍で相続人を確定します。
- 配分方針を決める:遺留分(民法1048条)に配慮しつつ、誰に何を渡すかを決めます。
- 本文を自書する:全文・日付・氏名を手書きし、押印します。財産目録のみパソコン作成が可能です。
- 法務局に保管申請する:本人が予約のうえ出頭し、3,900円を納付します(法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」2026)。
主な原因を深掘り:なぜ遺言書は「使えない」ことになるのか
原因1:形式不備(民法968条の要件を外す)
日付が「昭和47年7月吉日」と記載された自筆証書遺言は、暦上の特定の日を表示するものといえないとして無効とされました(最判昭和54年5月31日)。
注意
「令和8年8月吉日」「2026年8月末日」といった表記は避けてください。年月日を数字で正確に書くのが安全とされています。
原因2:財産と受取人の特定不足
- 不動産:住居表示(○○町1-2-3)ではなく、登記事項証明書どおりの所在・地番・家屋番号で書きます。マンションは敷地権の表示まで写します。
- 私道・持分:自宅前の私道持分や、未登記の物置・増築部分が漏れやすい箇所です。
- 預貯金:金融機関名・支店名・預金種別・口座番号まで書きます。
- デジタル資産:ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネーは通帳がないため、存在自体が把握されない恐れがあります。
原因3:相続開始後の設計漏れ
原因別の見分け方:あなたの遺言はどのリスクを抱えているか
法務局が「チェックしてくれない」12項目チェックリスト
| 法務局が確認する項目(形式) | 法務局が確認しない項目(内容)と、詰まる場面 |
|---|---|
| 全文が自書されているか | (1)不動産を登記事項証明書どおりの所在・地番・家屋番号で特定したか → 住居表示のみだと相続登記が受理されない恐れ |
| 日付が年月日で記載されているか | (2)私道持分・未登記建物を書き漏らしていないか → 漏れた分だけ遺産分割協議が必要になる |
| 氏名が自書されているか | (3)預貯金を金融機関名+支店名+種別+口座番号まで特定したか → 銀行窓口で「特定不能」とされる恐れ |
| 押印があるか(改正施行後は任意化予定) | (4)ネット銀行・ネット証券・暗号資産・電子マネーを列挙したか → 存在に気づかれず放置される |
| A4サイズ・片面のみの記載か | (5)相続人には「相続させる」、相続人以外には「遺贈する」と書き分けたか → 登録免許税が0.4%対2.0%で5倍変わる |
| 余白(上5mm・下10mm・左20mm・右5mm)が確保されているか | (6)遺言執行者を指定したか → 未指定だと預貯金解約に相続人全員の関与が必要になる場面がある |
| 全ページに通しページ番号があるか | (7)遺言執行者の権限(解約・払戻し・登記申請・貸金庫開扉)を明記したか → 銀行で権限不足を指摘される |
| ホチキス留めをしていないか | (8)受遺者が先に死亡した場合の予備的条項を入れたか → その条項が失効し分割協議に戻る |
| 消えにくい筆記具を使っているか | (9)「その他一切の財産」の受取人を定めたか → 記載漏れ財産で協議が必要になる |
| 財産目録の全ページに署名押印があるか | (10)遺留分(民法1048条)を侵害していないか、侵害する場合の負担順序を指定したか → 侵害額請求で紛争化 |
| 本人が出頭しているか(本人確認) | (11)財産目録の全ページに自書署名+押印をしたか(両面記載なら両面とも) → 目録部分が無効になる恐れ |
| 様式の体裁が整っているか | (12)相続登記3年ルール(2024年4月1日施行)を付言で伝えたか → 受遺者が期限を知らず過料の対象になる恐れ |
リスクの切り分け方
- 形式リスクが高い人:自分で調べながら書いた、日付や押印を後回しにした、市販の便せんに書いた。
- 内容リスクが高い人:不動産を複数持つ、事業用資産や非上場株がある、相続人以外に渡したい先がある。
- 後工程リスクが高い人:相続人が3人以上、疎遠な相続人がいる、取引金融機関が複数ある。
注意
「法務局に受理された=有効な遺言」ではありません。法務省の案内でも、保管制度は遺言書の内容の有効性を保証するものではないと明示されています。内容面は専門家の確認をおすすめします。
具体的な解決方法:自筆証書遺言の書き方を例文で確認する
遺言書の書き方 例文(基本形)
「相続させる」と「遺贈する」の書き分け
| 項目 | 相続人へ「相続させる」 | 相続人以外へ「遺贈する」 |
|---|---|---|
| 不動産の登録免許税 | 0.4% | 2.0%(5倍) |
| 相続登記の申請 | 取得する相続人の単独申請が可能とされる | 原則として遺言執行者または相続人全員と受遺者の共同申請 |
| 対象になる人 | 配偶者・子・親・兄弟姉妹など法定相続人 | 内縁の配偶者・孫(代襲相続人でない場合)・友人・法人・団体 |
補足
孫や兄弟姉妹の子など「相続人かどうか」がケースによって変わる立場の人もいます。戸籍で相続人の範囲を確定してから文言を選ぶのが確実です。
遺言書の書き方 自筆の実務ポイント
- 下書きをパソコンやメモで作り、財産の表示を登記事項証明書・通帳と1文字ずつ突き合わせます。
- 法務局保管を前提にする場合は、A4の白紙に余白(上5mm・下10mm・左20mm・右5mm)を鉛筆で薄く印を付けて位置を確認します。
- 消えにくい筆記具(ボールペン・万年筆)で清書します。鉛筆や消せるボールペンは避けます。
- 全ページに「1/3」形式のページ番号を余白内ではなく本文領域内に記載します(余白には何も書けません)。
- ホチキス留めはせず、クリアファイル等で保管します。
ケース別の対処:あなたはどの方式を選ぶべきか
判定チャート:今すぐ書くか、改正を待つか(2026年8月時点)
- YES → 今すぐ書く。現行方式(自筆+押印)で作成し、法務局へ保管申請します。改正待ちは無遺言リスクが上回ります。
- *今書いた遺言は改正後も有効か*:押印任意化は要件の緩和であり、押印済みの遺言が無効になるわけではありません。
- NO → Q2へ
- YES → 押印任意化の施行(公布2026年6月24日から1年以内=遅くとも2027年6月)を待つ選択肢があります。ただし施行日は政令待ちのため、暫定的に現行方式で作成し、施行後に書き直すのが安全とされています。拇印や第三者の補助による押印が可能かは、専門家に相談してください。
- *今書いた遺言は改正後も有効か*:有効です。押印がある遺言は改正後も要件を満たします。
- NO → Q3へ
- YES → 公正証書遺言を検討します。2025年10月1日施行の改定後の手数料令に基づく費用を、公証役場で事前見積もりしてもらいます。
- *今書いた遺言は改正後も有効か*:公正証書遺言はもともと押印の論点が異なり、改正の影響を受けにくい方式です。
- NO → Q4へ
- YES → 保管証書遺言(デジタル遺言)の施行は公布から3年以内=遅くとも2029年6月です。ただし待つ間は無遺言状態であり、その間に相続が開始すれば遺産分割協議になります。まず自筆+法務局保管で1通用意し、施行後に切り替えるのが現実的です。
- *今書いた遺言は改正後も有効か*:有効です。新方式ができても旧方式が失効する仕組みにはなっていません。
- NO → 自筆証書遺言+法務局保管(3,900円)が費用対効果の面で標準解になります。
4方式フル比較表(2026年8月時点・改正法反映)
| 比較項目 | ①自筆証書+自宅保管 | ②自筆証書+法務局保管 | ③公正証書遺言 | ④保管証書遺言(デジタル遺言) |
|---|---|---|---|---|
| 初期費用 | 0円 | 3,900円(保管申請1件) | 目的価額に応じた基本手数料+遺言加算13,000円(目的価額1億円以下、2025年10月改定後) | 未定 |
| 相続開始後の費用 | 0円(ただし検認費用が別途) | 遺言書情報証明書1通1,400円×必要通数 | 謄本交付の実費 | 未定 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
| 紛失・改ざんリスク | 高い(発見されない恐れ) | 低い(原本を法務局が保管) | 低い(原本を公証役場が保管) | 低い見込み |
| 無効リスクの残り方 | 形式・遺言能力の両方 | 形式のみ法務局が確認。内容と遺言能力は未確認 | 公証人が関与し最も低いとされる | 未定 |
| 押印の要否 | 改正施行後は任意 | 同左 | 不要 | 不要 |
| 本人の出頭 | 不要 | 本人が法務局へ出頭必須 | 公証役場または出張 | 対面またはウェブ会議で全文口述が要件 |
| 年間利用実績 | 統計なし | 2025年22,550件/2026年1〜7月15,513件 | 2025年(令和7年)123,891件 | — |
モデルケースで総額を実額計算する
| 費用の内訳 | A案:自筆+法務局保管 | B案:公正証書遺言 | C案:遺言なし |
|---|---|---|---|
| 作成時コスト | 0円+保管申請3,900円=3,900円 | 目的価額ごとの基本手数料(子2人分を区分計算)+遺言加算13,000円+謄本用紙代1枚300円×枚数+(出張時)日当・出張加算 | 0円 |
| 相続開始後コスト | 遺言書情報証明書1,400円×4通(登記用1・銀行3)=5,600円、検認0円 | 謄本交付の実費 | 遺産分割協議書の作成費用+相続人全員の実印・印鑑証明取得費 |
| 揉めた場合の追加コスト | 遺留分侵害額請求への対応費 | 同左(ただし遺言能力を争われにくい) | 遺産分割調停(申立て1,200円+郵便切手)、専門家費用、長期化コスト |
予防・再発防止のコツ:書いた後に効く5つの設計
1. 発見される仕組みを作る(指定者通知)
2. 遺言執行者を必ず指定する
3. 予備的条項を入れる
4. 遺留分を織り込んで配分する
5. 5年に一度、または節目で見直す
- 不動産の売却・購入、金融機関の統廃合や口座の解約
- 相続人の死亡、婚姻、離婚、養子縁組
- 押印任意化の施行(遅くとも2027年6月)および保管証書遺言の施行(遅くとも2029年6月)
補足
法務局保管の場合、保管申請の撤回や住所等の変更の届出は手数料無料です(法務省 手数料一覧 2026)。書き直しのハードルは高くありません。なお保管期間は、原本が死亡後50年、画像データが死亡後150年とされています。
専門家・公的情報の見解:一次情報はどこを見ればよいか
押さえておきたい公的データ(2026年8月時点)
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 保管申請の累計(令和2年7月〜令和8年7月) | 127,253件(保管件数126,976件) | 法務省民事局「遺言書保管制度の利用状況」(2026) |
| 遺言書情報証明書の交付請求(累計) | 12,890件 | 同上 |
| 遺言書保管事実証明書の交付請求(累計) | 17,203件 | 同上 |
| 遺言公正証書の年間作成件数 | 令和7年123,891件(令和6年128,378件) | 日本公証人連合会(2026年3月23日公表) |
| 保管申請の年間推移 | 2024年23,419件/2025年22,550件/2026年1〜7月15,513件 | 法務省民事局データより集計 |
| 60〜79歳の遺言書作成率 | 作成済み3.5%/作成予定12.2% | 日本財団(2023年、生命保険文化センター掲載) |
手数料の一次情報(法務省 2026)
- 保管申請:1件3,900円
- 遺言書情報証明書の交付:1通1,400円
- 遺言書保管事実証明書の交付:1通800円
- 閲覧:モニター1回1,400円/原本1回1,700円
- 保管申請の撤回・変更の届出:無料
相談先の使い分け
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 制度の手続き・様式・予約 | 法務局(遺言書保管所)の窓口・専用ダイヤル |
| 公正証書遺言の作成・費用見積もり | 最寄りの公証役場 |
| 不動産の特定・相続登記を見据えた文面 | 司法書士 |
| 相続税を含む配分設計 | 税理士 |
| 遺留分・相続人間の対立が予想される場合 | 弁護士 |
| 費用面で不安がある場合 | 法テラス(資力要件あり) |
注意
本記事は一般的な情報を整理したものであり、個別の法的助言ではありません。財産構成や家族関係によって最適な方式や文面は変わります。実際の作成にあたっては、法務局および弁護士・司法書士・税理士等の専門家にご相談ください。




