- 退去費用に公的な統計はありません。「1Kで2〜3万円」といった相場は、不動産メディアなどが自社で集めた目安です。
- 一方、ガイドラインが示す負担区分と耐用年数を使えば、借主が負担する上限のめやすは自分で計算できます。
- 請求書が届いたら、相場と比べる前に、①明細の開示を書面で求める → ②家賃保証会社を使っているなら、代位弁済(保証会社が代わりに払うこと)の前に不承諾を伝えるの順で動きます。
退去費用の相場はいくら?請求書が届いたらまず何をする?
相場の数字はどこから来ているのか
| 広さ・間取り | 退去費用の目安 | 主な内訳 |
|---|
| 20㎡ ワンルーム・1K | 約2万円(2〜3万円) | ハウスクリーニング+部分補修 |
| 40㎡ 1LDK | 約4万円 | ハウスクリーニング+原状回復 |
| 70㎡ 3LDK | 約7万円(7〜11万円) | ハウスクリーニング+原状回復 |
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出典:SUUMO 住まいのお役立ち記事の集計値。国や自治体が公表した統計ではないため、「相場より高いから払いません」という主張は、それ自体では根拠になりにくい点に注意が必要です。
請求書が届いた日にやること
- 請求書に部位・単価・数量が書かれているか確認する(「原状回復一式」だけなら根拠を確認できません)。
- 書かれていなければ、メールや書面で明細の開示を求める(電話だけで済ませない)。
- 家賃保証会社を使っている契約なら、保証会社にも「争っている」と伝える。
注意保証会社が貸主へ代位弁済をしてしまうと、その後は「保証会社からの求償請求」に相手が変わります。管理会社と話し合う前提が崩れるため、支払いが行われる前の連絡がとても大切だとされています。
その請求、払う前に3分診断
- 分岐①:明細に「部位・単価・数量」が書かれていますか?
- いいえ → 終点A:明細開示請求へ
- はい → 分岐②へ
- 分岐②:請求項目に通常損耗が含まれていますか?(日焼けによるクロスの変色、家具の設置跡、画鋲の穴、ハウスクリーニングなど)
- はい → 分岐③へ
- いいえ(故意・過失による損傷だけ) → 分岐④へ
- 分岐③:契約書に、負担範囲と金額(または算定根拠)が具体的に書かれた特約がありますか?
- いいえ → 特約の明確性要件を満たさない可能性(最高裁平成17年12月16日判決、消費者契約法10条)→ 終点B
- はい → 分岐④へ
- 分岐④:住んだ年数は、その部位の耐用年数(クロスなら6年)を超えていますか?
- はい → 残存価値1円ルート。施工費のうち借主負担はほぼゼロと計算されます → 終点B
- いいえ → 次章の逆算シートで上限を計算 → 終点B
- 分岐⑤(最優先):家賃保証会社を利用していますか?
- はい → 代位弁済の前に「不承諾」を書面で伝えるのが最短経路です
- A:明細開示請求(メール・書面で記録を残す)
- B:減額交渉書面(計算の根拠を添えて提示する)
- C:消費生活センター(消費者ホットライン188)/東京都内なら賃貸ホットライン03-5320-4958
- D:民事調停または少額訴訟(2026年5月21日からオンライン申立てが可能)
相場より高くなる主な原因を深掘り(特約・耐用年数・保証会社)
原因1:特約で通常損耗まで上乗せされている
原因2:経過年数の減額と負担単位が反映されていない
原因3:家賃保証会社が先に払い、交渉相手が変わる
注意保証会社への連絡は、内容証明郵便など日付と内容が残る方法が安心です。伝える内容は「金額と内訳を争っていること」「代位弁済に同意していないこと」「弁済の前に連絡がほしいこと」の3点です。
原因4:住んでいる地域でルールが違う
原状回復の耐用年数で、負担上限はいくらになる?【逆算シート】
ガイドラインの耐用年数一覧
| 部位・設備 | 耐用年数の扱い | 年数経過後 |
|---|
| 壁のクロス(壁紙) | 6年 | 残存価値1円 |
| クッションフロア | 6年 | 残存価値1円 |
| カーペット | 6年 | 残存価値1円 |
| 畳表(ござ) | 消耗品として扱われ、経過年数を考慮しない | 減額なし |
| フローリング(全体の張り替え) | 建物の耐用年数に準じる | 建物次第 |
| エアコンなどの設備機器 | おおむね5〜15年 | 残存価値1円 |
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出典:国土交通省 住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(2011年8月)。
負担上限 逆算シートの計算式
- 施工費 = 施工単価 × 施工面積(㎡)
- 残存価値割合 = (耐用年数 − 経過年数)÷ 耐用年数 ※マイナスになる場合は0
- 法的な負担上限 = 施工費 × 残存価値割合
- 請求超過率 = (請求金額 − 負担上限)÷ 負担上限 × 100
計算例3本
| 例 | 条件 | 残存価値割合 | 負担上限のめやす | 請求額 | 超過率 |
|---|
| 例1 | 1K・入居3年・クロス20㎡ | (6−3)÷6=50% | 約2万円 | 4万円 | 約100% |
| 例2 | 1LDK・入居6年2か月・クロス45㎡ | 0(残存価値1円) | ほぼ0円 | 7万円 | 大幅超過 |
| 例3 | 入居2年・喫煙のヤニで全体張替45㎡×1,100円=49,500円 | (6−2)÷6≒66.7% | 約33,000円 | 49,500円 | 約50% |
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経過年数の減額が効かない例外
- 畳表:消耗品として扱われ、経過年数を考慮しないとされています
- 襖紙:同じく消耗品扱いです
- 鍵交換:物の価値の減少ではないため、減額の対象になりません
- ハウスクリーニング:特約がある場合、経過年数では下がりません
補足6年を超えて住んでいても、借主の故意や過失で壊した場合は、善管注意義務違反として工事費用の一部(作業の手間賃など)の負担を求められることがあるとされています。「6年経てば全部ゼロ」と決めつけないほうが安全です。
退去費用の交渉は「明細開示→減額提示→第三者」の順に進めます
書面1:まず明細の開示を求める
●月●日付でご請求いただいた原状回復費用について、部位ごとの単価・数量・施工範囲が分かる明細と、根拠となる契約条項をお示しください。内容を確認のうえ改めてご連絡します。現時点では請求内容に同意していません。
書面2:減額を提示する
- 争う項目(例:クロス全面張替44,000円)
- 通常損耗にあたると考える理由、または経過年数
- 逆算シートで出した負担上限の計算過程
- 提示する金額と、支払いの意思がある範囲
書面3:保証会社への不承諾通知
貸主からの原状回復費用のご請求について、金額と内訳を争っています。代位弁済には同意しておりませんので、弁済を行う前にご連絡ください。
話がまとまらないときの第三者ルート
| 手段 | 費用の目安 | 特徴 |
|---|
| 消費生活センター(188) | 無料 | 助言やあっせん。最初の相談先 |
| 民事調停 | 10万円の請求で500円 | 話し合いでの解決。訴訟の約半額 |
| 少額訴訟 | 10万円の請求で1,000円 | 60万円以下が対象。原則1回の審理で判決 |
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出典:裁判所「民事調停」「少額訴訟」(2026年時点)。少額訴訟は同じ簡易裁判所に年10回まで、判決に不服がある場合は受領した日の翌日から2週間以内に異議申立てができるとされています。敷金返還請求は代表的な利用例です。
敷金が返ってこない・退去費用が払えないときのケース別対処
ケース1:敷金が返ってこない
ケース2:退去費用が払えない
- 認める部分と争う部分を分ける:納得できる項目だけ先に支払う方法もあります。ただし「全額に同意した」と受け取られない書き方が必要です
- 分割払いを書面で相談する:口頭の約束は記録が残りません
- 放置しない:遅延損害金や保証会社からの求償が続く可能性があります
- 公的な窓口を使う:消費者ホットライン188、収入などの条件を満たす場合は法テラス(日本司法支援センター)の相談制度もあります
注意「払えないから」と請求書を見ないままにすると、争えたはずの項目まで確定してしまうことがあります。金額を減らす交渉と、支払い方法の相談は、別々に進められます。
ケース3:喫煙・ペット・特約があるとき
退去立会いの注意点:署名していい書類と、してはいけない書類
当日の判定表
| 書類名と典型的な文言 | 署名の可否と代わりの動き |
|---|
| 鍵返却書(鍵を受け取りましたという受領のみ) | 署名可。事実の確認であり、金額の合意ではありません |
| 室内状況確認書(損傷箇所にチェックのみ・金額欄なし) | 条件付きで可。「金額および負担割合は未確定」と手書きで書き添えます |
| 原状回復費用負担同意書(金額欄が空白) | 署名しない。空白のまま署名すると、後から記入された額に同意したと主張されることがあります |
| 精算金額確定書・清算合意書 | その場では署名しない。持ち帰りの期限をメールなど書面で確認します |
| 立会い写真への署名・タブレットの電子サイン | 控えを得るまで不可。内容を自分でも撮影し、写しを受け取ってから判断します |
| 保証会社宛の支払委託書・代位弁済同意書 | 最重要。署名しない。請求者が保証会社に切り替わり、交渉相手が変わります |
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すでに署名してしまったとき
- 署名した時点で金額欄が空白だった事実を記録する(同席者の氏名、撮影の時刻、当日のやり取りのメール)
- 契約書の原本で特約を確認する。負担範囲と金額が具体的に書かれていない場合、最高裁平成17年12月16日判決が示した明確性の要件や消費者契約法10条を根拠に争える余地があるとされています
- 代位弁済の前なら、保証会社へ不承諾を内容証明郵便で伝える
入居時・入居中にやっておくこと
- 入居時と退去時に、同じ角度で日付入りの写真を撮る
- 契約書の原状回復条項と特約のページを、別に保管しておく
- 東京都内なら、条例に基づく説明書面を保管する
補足東京都の説明書面は、2026年9月時点では、借主が希望する場合などメールなど電磁的な方法での提供もできるようになっています。紙が見つからないときは、契約当時のメール受信箱を探してみてください(東京都住宅政策本部)。
専門家・公的情報の見解:ガイドライン・判例・相談件数
基準は国土交通省のガイドライン
特約の有効性を判断した最高裁判決
賃借人が補修費用を負担することとなる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である
相談件数から見える傾向
| 年度 | 原状回復に関する相談件数 |
|---|
| 2023年度 | 13,273件 |
| 2024年度 | 13,312件 |
| 2025年度 | 14,711件 |
| 2026年度(5月31日時点) | 1,846件(前年同期1,645件) |
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出典:国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」相談件数統計(2026年)。また、賃貸住宅に関する相談は毎年3万件以上寄せられ、そのうち原状回復に関する相談が約4割を占め、12〜1月に最も少なく2〜4月に増える季節性があるとされています(国民生活センター 報道発表、2023年2月1日)。
東京都には独自のルールがあります
やってはいけないNG対応
- 金額欄が空白の書類に署名する — 後から記入された額への同意と主張されることがあります
- 電話だけで交渉する — 言った・言わないになり、譲歩の記録も残りません
- 請求を無視して放置する — 遅延損害金や保証会社の求償が進む可能性があります
- 保証会社の代位弁済に同意する — 交渉相手が消え、支払い義務の話に切り替わります
- 相場表だけを根拠に「高すぎる」と言う — 公的統計ではないため、説得力を持ちにくい主張です
- 「6年住んだから全部ゼロ」と決めつける — 畳表・襖・鍵交換・ハウスクリーニングは減額が効かず、故意・過失があれば一部負担を求められることがあります
- SNSで管理会社名を出して争う — 別のトラブルに発展するおそれがあります
注意「サインしないと鍵を返せない」「今日中に決めてほしい」と急かされても、その場で金額を確定させる必要は通常ありません。持ち帰って確認したい旨を伝え、期限を書面で決めてもらってください。
よくある質問
最終確認日:2026年9月13日
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